様々な技法のプリントが冴える!
ヤマタカ捺染工場 二代目山口智己さん
一言「シルクスクリーンプリント(手捺染)」といっても色々な技法がある。今回そんな楽しいシルクスクリーンの世界を教えて下さったのは、1970年頃に設立したヤマタカ捺染工場の二代目、山口智己さんです。

二代目山口智己さんにお話を聞きました
ヤマタカ捺染工場は元々、先代が勤めていた会社から独立し創業したネクタイの友禅染めを主とした工場だったのですが、現在はTシャツやトレーナー等の製品染めが主となっております。

捺染台には製品固定用の板が並びます
様々な材料や技法で作られたTシャツ
Tシャツの製品サンプルを見せて頂いたのですが、染料、顔料、色の種類、加工などとにかく多種多様で驚きました。

細かい柄の複数色プリント

ラメインクを使ったプリント

シルバーインクを使ったプリント

染めに加え色々な加工が施されているものまで
【COB】今は、どのような方とお仕事をされておりますか?
【山口さん】主にファッションブランドから製品へのプリントをお願いされます。自分たちが手がけた製品が、誰かに着用されているのを見かけたり、ネット販売でランキングのトップになった事もあるのですが、そうした時はやはり嬉しいです。
当工場としては特に抜染プリントが強みで、その依頼が多いです。あとはカラー分解を用いる依頼も多いです。
抜染について教えて頂きました。
【COB】Tシャツへの顔料プリントはよく聞くのですが、「抜染」という言葉は初めて聞きました。どんな手法なのでしょうか?
でも、まずはTシャツへの(顔料)シルクスクリーンの方法から教えて下さい。
【山口さん】捺染台にTシャツを固定します。置く位置は粘着性のある板(下敷き)で決まっており、それに対して版を置く位置も固定されているので、1枚1枚位置がずれる事はありません。

写真右側の黒い板が、製品を捺染台に固定する板、
右のフレームが版で、左下のジョイントで捺染台に固定されます。

板とフレームのジョイント部分は全て等間隔で捺染台に設置されています。
【山口さん】版をTシャツの上に置いた状態で、1枚1枚にインクを刷っていきます。複数色の場合は、色数分版を用意して1色1色順番に刷っていきます。

版の青い部分はインクを通さず、網目の部分から生地にインク乗っていきます。
【COB】そういう仕組みになっていたのですね! そして抜染とは?
【山口さん】抜染は染めたい部分だけ生地の色を抜いて染める技法です。髪をブリーチする様なものです。抜染剤を版の形で生地に塗り、蒸すとその部分だけ生地の色が抜けてプリントが浮かび上がります。ラバーのように顔料でTシャツが固くなることがありません。

こちらが抜染剤。これを生地に刷って製品を蒸します。

塗った部分だけTシャツの黒色が抜け、染めが入ります。
【COB】通常のラバーなどの顔料プリントにはない風合いが出来ますね、後プリント部分の劣化が起きないのもいいですね。蒸し器も見せて頂きたいのですが?
【山口さん】ちょうど蒸し終わる抜染のTシャツを見る事が出来ますよ。

重い扉が開くと工場内に立ち込める物凄い蒸気。

中から蒸し終わったTシャツが登場。
【山口さん】蒸し終わったTシャツは工場内で乾かします。
【COB】紙への印刷だと、紙の乾燥や定着の問題があるため工場内の湿度や温度を一定に保ったりするのですが、シルクスクリーンでもそうした部分に注意されますか?
【山口さん】染めの場合は蒸す温度により仕上がりが変わるため、日々の天候や気温により蒸し器の温度調整が重要になってきます。
仕上がりの雰囲気が大事
【COB】他に工程で気をつけている部分、心がけている点はありますか?
【山口さん】以前主に扱っていたネクタイの場合は、全てがそうではないですが、細かい柄を綺麗につけることが全て、1mmのズレも許されないような染め作業だったのですが、Tシャツへのプリントは逆に少しのズレがアジになる場合があるなど、仕上がった時の製品全体の「いい雰囲気」を出す事が大事です。例えばネクタイと同じようにTシャツを作ると「固い雰囲気」になります。
なので、仕上がりの色合い、風合いをまずは依頼主と直接会って打ち合わせをすることが重要です。例えば白でプリントするのでも、ラバーでやるか抜染でやるかで仕上がりの「雰囲気」が変わります。満足いくものをちゃんと作っていくにはどうしても電話やメールだけではお互い伝えきれない部分が多いのです。よく頼まれる方は、ある程度慣れてきて「雰囲気」が分かっているのでやりとりが通信だけの場合もありますが。
また基本的にリピートはあまりなく、1件1件全部柄が違う仕事なので、常に柄をみて「コレの時はコレ」と全ての依頼に柔軟に対応しなければなりません。工場の機械も自分たちでメンテナンスしたり、使いやすく改良したりと工夫しています。
シルクスクリーンの品質も仕事も1+1=2という単純なものではないのです。

現在進行中のTシャツを前に良いお話を聞けました。
発売前のため、お見せできないのが残念です。
いわゆるただプリントしてあるだけのTシャツではなく、プリントのデザインを製品に定着させた時に全体的に魅力が増す、それを如何に上手く作るか、ただの作業ではなく「ものづくり」を感じるヤマタカ捺染工場の手仕事。工場内も楽しい柔軟な「雰囲気」が漂っておりました。
八王子ファッション協議会の関係で、自工場オリジナルの製品を販売することもあるそうです。見かけたら是非手にとってみてください。シルクスクリーンの楽しさが伝わってくるはずです。
そしてTシャツ、トレーナー、パーカー等、凝ったものを作りたいと思った方、是非山口さんにご連絡をして見て下さい。
ヤマタカ捺染工場
東京都八王子市横川町270-4
042-624-4032